父の看取りと、空き家になった実家の片付け。家族で向き合った日々
遠方に住む父の、緩やかな変化
数年前に母が亡くなってから、父は九州の実家で一人暮らしをしていました。幸い近所付き合いもあり、しばらくは元気にやっていたのですが、80歳を過ぎたあたりから、少しずつ体力の衰えや物忘れが見られるように。私と妹はそれぞれ関東で家庭を持っており、頻繁に帰省するのは難しく、電話やたまの帰省で様子を見る日々が続きました。
父は昔気質の頑固なところがあり、将来の介護や医療について話を向けても「まだ大丈夫だ」「自分のことは自分でやる」と、なかなか真剣には取り合ってくれませんでした。エンディングノートのようなものも、おそらく準備していなかったと思います。私たち兄妹も、「まだ元気そうだし…」と、どこかで問題を先送りにしていたのかもしれません。
突然の入院、そして「看取り」へ
そんなある日、父が自宅で転倒し、入院したとの連絡が入りました。幸い骨折は軽度でしたが、これを機に体力が一気に落ち、認知機能の低下も進んでしまったのです。退院後の生活について、父の意向も聞きながら、兄妹で何度も話し合い、最終的には本人の希望もあって、緩和ケアも受けられる病院へ転院することになりました。
そこからの数ヶ月は、私と妹が交代で実家に帰り、父に付き添いました。もうあまり話はできませんでしたが、そばにいて手を握る時間が、父にとっても、私たちにとっても、静かで大切な時間だったように思います。最期は、眠るように穏やかに旅立ちました。
葬儀は、父が生前「質素に、家族だけで」と漏らしていたのを思い出し、近親者のみでこぢんまりと行いました。幸い、互助会に入っていたことと、母の時の経験があったため、葬儀自体は比較的スムーズに進められましたが、それでも悲しみの中で諸々の手続きに追われるのは、やはり大変でした。
残された実家と、膨大な「遺品」
葬儀が終わり、少し落ち着いた頃、私たち兄妹の前に立ちはだかったのが、誰も住まなくなった実家の「片付け」という大きな課題でした。両親が何十年も暮らした家です。家具や家電はもちろん、衣類、食器、本、趣味の道具、そして、たくさんの写真や思い出の品々…。
「どこから手をつければいいんだ…」
途方に暮れるほどの物の量でした。父も母も、物を大切にする世代だったのでしょう。なかなか物を捨てられない性格だったこともあり、家の中は文字通り「物で溢れて」いました。
兄妹で協力、作業分担して片付け開始
私たち兄妹もそれぞれ仕事や家庭があり、片付けに割ける時間は限られています。最初は、「いつまでにどうするか」で少し意見がぶつかることもありました。しかし、「これは二人で協力しないと終わらない」と腹を決め、毎月1、2回、週末に実家に集まって作業することにしたのです。
まず、明らかにゴミと分かるものから処分し、次に衣類、本、食器…と、場所や種類を決めて分担して進めました。「1年間使っていないものは処分」「迷ったら保留ボックスへ」といったルールも作りました。
作業中は、古いアルバムや手紙が出てきて、つい手が止まってしまうこともしばしば。忘れていた子供の頃の記憶が蘇ったり、両親の意外な一面を知ったり…。単なる「片付け」ではなく、両親との思い出を辿り、兄妹で語り合う時間にもなりました。もちろん、体力的には大変でしたが。
業者も利用し、ようやく完了へ
ある程度仕分けが進んだ段階で、大型家具や家電、処分に困るものなどは、遺品整理も扱っている専門の不用品回収業者にお願いしました。費用はかかりましたが、自分たちだけでは運び出せないものを効率的に処分でき、結果的に頼んで良かったと思います。
全ての片付けが終わり、家の中がガランとするまで、結局半年以上かかりました。寂しい気持ちもありましたが、それ以上に大きな達成感と、肩の荷が下りたような安堵感を覚えました。
今回の経験から学んだこと
- 親の終活(特に生前整理)は本当に重要:元気なうちに少しでも物を減らしておいてもらえると、残された家族の負担は全く違うと痛感しました。
- 家族間のコミュニケーションの大切さ:元気なうちに、介護や医療、お墓、財産のことなど、親子で、兄弟姉妹で、オープンに話し合っておくべきでした。
- 一人で抱え込まない:大変な作業は、兄弟姉妹や、時には専門家の力を借りて、協力して進めることが大切だと実感しました。
「大変な経験でしたが、兄妹で一つの目標に向かって協力したことで、以前よりもお互いを理解し、支え合えるようになった気がします。」
これから同じような状況を迎える方へ
親御さんがご健在なら、ぜひ、将来のことについて話し合う機会を持ってみてください。そして、ご自身の終活も、少しずつ始めてみてください。実家の片付けは、本当にエネルギーが必要です。できるだけ、親子で、あるいはご自身で、元気なうちに進めておくことをお勧めします。
もし、すでに大変な状況に直面されているなら、一人で、あるいは夫婦だけで抱え込まず、他のご兄弟や親戚、そして必要であれば専門家の助けを借りてください。時間はかかるかもしれませんが、必ず終わりは来ます。
※ この体験談は、個人の経験に基づいたものであり、すべての方に当てはまるものではありません。状況や進め方は様々です。ご自身の状況に合わせて、専門家への相談などもご検討ください。