遺産分割で兄弟が対立!「長男だから多くもらうべき」は通用する?
事例の概要
- 被相続人:父親
- 相 続 人:母親、長男(Aさん)、長女(Bさん)の計3名
- 主な遺産:父親名義の実家不動産(母親と長男Aが同居)、預貯金
- 遺 言 書:なし
- トラブルの内容:実家不動産の分け方を巡り、長男Aと長女Bの意見が対立。遺産分割協議が難航した。
事案の経緯:遺産分割協議の開始
父親が亡くなり、四十九日も過ぎた頃、母親、長男Aさん、長女Bさんの3人で遺産分割について話し合いが始まりました。遺言書はなかったため、法律に従って分けることになります。法定相続分は、母親が1/2、長男Aさんと長女Bさんがそれぞれ1/4ずつです。
預貯金については、法定相続分で分けることで比較的スムーズに合意に至りました。問題となったのは、主な遺産である実家不動産(土地・建物)の扱いです。
対立のポイントと双方の主張
話し合いの中で、長男Aさんは以下のように主張しました。
長男 Aさん 「この家は、俺が長男として引き継ぐべきものだ。それに、今まで親父とお袋の面倒を見てきたのは俺なんだから、その分も考慮してほしい。預貯金は法定相続分で分けてもいいが、家は俺が相続するのが当然だろう。」
Aさんは、自分が両親と同居し、老後の面倒(特に晩年の父親の通院介助など)を見てきたという自負(寄与分の主張に近い意識)と、「長男が家を継ぐ」という伝統的な考え方から、実家不動産は自分が単独で相続すべきだと考えていました。
一方、結婚して実家を離れて暮らす長女Bさんは、こう反論しました。
長女 Bさん 「お兄さんがお父さんたちの面倒を見てくれたことには感謝してる。でも、法律では子供は平等のはず。私も相続人として、不動産の価値も含めた全体の1/4をもらう権利があると思う。お兄さんが家を相続するなら、その分に見合う代償金(現金)を私に支払ってほしい。」
Bさんは、法律で定められた権利(法定相続分)を主張し、公平な分割を求めました。また、内心では、過去にAさんが父親から事業資金の援助(特別受益にあたる可能性)を受けていたことへの不公平感も抱いていました。
母親は、二人の間で板挟みになり、「できれば穏便に済ませたい」「でもBの言うことも分かる」「Aが家を継いでくれるのは安心」といった複雑な心境で、明確な態度を示せずにいました。
交渉の経過と解決策
その後、何度か話し合いが持たれましたが、感情的な対立も加わり、平行線をたどりました。特に不動産の評価額や、Aさんの「面倒を見た」という貢献度(寄与分)、過去の資金援助(特別受益)をどう評価するかで意見がまとまりませんでした。
このままでは埒が明かないと考えたBさんは、弁護士に相談。Aさんも対抗するように別の弁護士に相談し、一時は家庭裁判所での調停も視野に入る状況になりました。
しかし、弁護士がそれぞれの主張の法的根拠(法定相続分が原則であること、寄与分や特別受益の主張・立証は簡単ではないことなど)を説明し、調停や審判になった場合の長期化や費用の問題を提示したことで、双方に歩み寄りの機運が生まれました。
最終的には、以下のような内容で合意に至りました。
- 実家不動産は、今後も母親と同居する長男Aが相続する。
- 不動産の評価額については、不動産鑑定士の意見も参考に、双方が納得できる金額で合意する。
- 長男Aは、長女Bの法定相続分(1/4相当額)から、預貯金で受け取る分を差し引いた不足額を、代償金としてBに支払う(代償分割)。
- 過去の資金援助(特別受益)や介護の貢献(寄与分)については、厳密な評価は困難であるため、代償金の額を調整する(多少減額する)ことで双方が譲歩する。
- 母親の相続分(1/2)については、今回は明確な分割はせず、母親の今後の生活を考慮し、Aが引き続き同居して面倒を見ることを確認する。
この内容で遺産分割協議書を作成し、無事に相続手続きを進めることができました。時間はかかりましたが、裁判所の判断を待つことなく、当事者間の合意で解決できたことは、不幸中の幸いでした。
この事例から学べる教訓
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遺言書の重要性
もし父親が、不動産を誰に相続させるか、他の相続人にどう配慮するかなどを具体的に遺言書で指定していれば、このような対立は避けられた可能性が高いです。→ 遺言書について
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法定相続分が基本原則
「長男だから」「家を継ぐから」といった考え方は、現在の法律では通用しません。法定相続分が分割の基本となることを理解しておく必要があります。→ 相続の基本と流れ
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寄与分・特別受益の主張は慎重に
介護への貢献(寄与分)や生前の援助(特別受益)は、相続分に影響を与える可能性がありますが、法的に認められるには客観的な証拠と評価が必要で、主張・立証は容易ではありません。感情的な主張だけでは認められにくいことを認識する必要があります。
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冷静な話し合いと専門家の活用
感情的になると、解決できる問題もこじれてしまいます。当事者だけで解決が難しい場合は、早めに弁護士などの専門家に相談し、法的な観点からのアドバイスや、冷静な交渉のサポートを受けることが有効です。→ 弁護士について
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生前のコミュニケーション
相続は、残された家族の問題であると同時に、亡くなった方の意思の問題でもあります。元気なうちに、財産の分け方や家族への想いについて話し合っておくことが、最も効果的なトラブル予防策と言えるでしょう。
※ この事例は、一般的な相続トラブルのパターンを分かりやすく説明するために作成した架空のものです。実際の事案とは異なります。