相続開始後に多額の借金が発覚!相続放棄の3ヶ月期限が迫る
事例の概要
- 被相続人:父親(山田 太郎さん・仮名)
- 相 続 人:母親(妻)、長男(一郎さん)、長女(花子さん)の計3名
- 主な遺産(当初認識):自宅不動産(ローン完済)、預貯金数百万円
- 遺 言 書:なし
- トラブルの内容:相続開始から2ヶ月以上経って、父が知人の連帯保証人になっていたこと、さらに消費者金融からの借入があったことが判明。負債総額がプラスの財産を上回る可能性が出てきたが、相続放棄の期限(3ヶ月)が迫っていた。
事案の経緯:想定外の通知
山田太郎さんが亡くなり、妻と長男の一郎さん、長女の花子さんは、悲しみの中にも、相続手続きを進めようとしていました。太郎さんは生前、特に大きな借金の話はしておらず、家族は自宅とわずかな預貯金を法定相続分で分けるつもりでいました。遺言書もありませんでした。
一郎さんは、葬儀費用などを支払うために、太郎さん名義の預金の一部を引き出していました。そして、相続開始から2ヶ月半ほどが経ったある日、太郎さん宛に消費者金融から督促状が届いたのです。さらに数日後、別の金融機関から「連帯保証債務の履行請求」に関する通知書も届きました。
「父さんに借金なんてあったのか?」「連帯保証人? 聞いてないぞ…!」
家族は青ざめました。通知書に記載された金額は大きく、預貯金はもちろん、自宅を売却しても足りないかもしれないほどの額でした。
直面した課題:迫る3ヶ月の期限
家族が直面した最大の課題は、「相続放棄」または「限定承認」の手続き期限(熟慮期間)が目前に迫っていることでした。これらの手続きは、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所で行う必要があります。
既に2ヶ月半が経過しており、残された時間はわずかです。さらに、以下の問題もありました。
- 負債の全体像が不明:通知が来た以外にも、まだ把握していない借金や保証債務があるかもしれない。
- 法定単純承認のリスク:一郎さんが既に預金の一部を使ってしまったことが、「単純承認(=借金も含めて全て相続します、という意思表示)」とみなされ、もはや相続放棄ができないのではないかという不安。
パニックになりかけた家族は、すぐに行動を起こすことにしました。
専門家への相談と対応
一郎さんと花子さんは、急いで相続問題に詳しい弁護士を探し、法律相談を受けました。弁護士からは、以下の具体的なアドバイスと対応方針が示されました。
- 現状確認:まず、預金の引き出し状況を確認。葬儀費用など、社会通念上相当な範囲での支払いであれば、直ちに法定単純承認とはみなされない可能性が高いが、個人の使途があればリスクがあることを説明。
- 負債の緊急調査:心当たりのある金融機関への問い合わせに加え、信用情報機関(CIC、JICC、KSC)への情報開示請求を行い、他の借入がないか迅速に調査することを指示。
- 熟慮期間伸長の申立て:3ヶ月の期限内に調査・判断が完了しない可能性が高いと判断し、直ちに家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間伸長」の申立てを行うことを提案。これにより、判断までの時間を数ヶ月間延長できる可能性がある。
- 相続放棄の準備:期間が伸長されたとしても、最終的に負債が資産を上回る、または全体像が掴めないリスクを考慮し、相続放棄の申立て準備も並行して進めることを推奨。
家族は弁護士に依頼し、すぐに期間伸長の申立てと、信用情報機関への開示請求を行いました。幸い、家庭裁判所は期間伸長を認め、3ヶ月間の延長が許可されました。
延長された期間中に調査を進めた結果、幸いにも、判明していた連帯保証債務と消費者金融の借入以外に大きな負債は見つかりませんでした。しかし、連帯保証債務のリスク(主債務者が支払えなくなった場合に全額請求される)を考慮し、最終的に、母親、一郎さん、花子さんの相続人全員で相続放棄を選択し、家庭裁判所に申述、無事に受理されました。
この事例から学べる教訓
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相続財産調査は負債も含めて徹底的に
「借金はないはず」という思い込みは危険です。預貯金や不動産だけでなく、ローン、クレジット、特に連帯保証の有無は必ず確認しましょう。信用情報機関への照会も有効な手段です。→ 相続財産の調査・評価
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「3ヶ月」の熟慮期間を常に意識する
相続放棄・限定承認の期限は非常に短いです。相続が発生したら、まずこの期限を念頭に置き、財産調査を最優先で開始しましょう。
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安易な相続財産の処分・使用は避ける
熟慮期間中に相続財産を使ってしまうと、単純承認とみなされ、放棄できなくなるリスクがあります。判断がつくまでは、故人の財産には手を付けないのが原則です。
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期限が迫ったら迷わず専門家に相談&期間伸長
3ヶ月以内に調査・判断が難しい場合は、期限が来る前に家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます。手続きも含め、すぐに弁護士や司法書士に相談しましょう。
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生前の情報共有・整理の重要性
もし太郎さんが生前に、家族に借金や保証契約について伝えていたり、エンディングノート等に情報を残していれば、家族がこれほど慌てることはなかったかもしれません。
※ この事例は、一般的な相続トラブルのパターンを分かりやすく説明するために作成した架空のものです。実際の事案とは異なります。