医療・介護に関する意思表示
あなたの「最期まで自分らしく生きたい」という想いを大切にするために。
元気なうちに医療やケアに関する希望を伝え、準備しておく方法を考えます。
なぜ、事前の意思表示が大切なの?
病気や事故、認知症などによって、自分で意思を伝えられなくなる可能性は誰にでもあります。そのような状況になった時、どのような医療やケアを受けたいか(または受けたくないか)を事前に示しておくことで、以下のようなメリットがあります。
- ご自身の意思が尊重され、望まない医療やケアを避けられる可能性が高まる。
- 判断を委ねられる家族の精神的な負担や、家族間の意見対立を軽減できる。
- 医療・ケアチームが、本人の価値観に沿った最適な方針を立てやすくなる。
- 自分自身の生き方や価値観を見つめ直し、納得のいく人生を送る一助となる。
特に高齢化が進む現代において、事前の意思表示の重要性はますます高まっています。
主な意思表示の方法
医療・介護に関する意思を示す方法には、いくつかの段階や形式があります。
- 1. 事前指示書(リビングウィル)
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主に終末期医療(回復の見込みがなく死期が迫っている状態など)において、延命治療(人工呼吸器、心肺蘇生、胃ろう等の経管栄養など)を希望するかどうかを具体的に書き記した文書です。「尊厳死の宣言書」と呼ばれることもあります。
※日本の法律で明確に規定されているわけではありませんが、本人の意思を示す重要な資料として尊重される傾向にあります。(詳細は後述) - 2. 人生会議(ACP: アドバンス・ケア・プランニング)
- 「人生会議」とは、もしもの時に備えて、自らが望む医療やケアについて、前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有するプロセス(過程)のことです。特定の状態だけでなく、将来の心身の変化を見据えながら、価値観や目標も含めて話し合います。リビングウィルもこのプロセスの一部として活用されます。厚生労働省も推進しています。
- 3. 代理意思決定者の指定
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自分で判断できなくなった場合に、代わりに医療やケアに関する決定をしてくれる人(家族や信頼できる友人など)を、事前に指名しておくことです。誰に、どのような権限を委ねるかを明確にし、その人と日頃から十分に話し合っておくことが極めて重要です。エンディングノートや事前指示書に明記することも有効です。
※より広範な財産管理や身上監護の代理権については「任意後見制度」があります。 - 4. 口頭での意思表示
- 日頃から家族や医師に自分の考えを伝えておくことも大切です。ただし、記憶違いや解釈の違いが生じる可能性があるため、できるだけ書面に残すことが推奨されます。
意思表示で考えること・書くことの例
具体的にどのような点を考え、意思表示として残しておくべきでしょうか。
- 延命治療について:回復の見込みがない終末期や、重度の認知症、遷延性意識障害(植物状態)になった場合などに、心肺蘇生、人工呼吸器、胃ろう等の経管栄養、点滴による水分・栄養補給、血液透析などを希望するかどうか。
- 苦痛の緩和について:どのような状態になっても、痛みや苦痛を最大限和らげるケア(緩和ケア)を希望するかどうか。
- 療養場所について:最期を迎えたい場所(自宅、病院、緩和ケア病棟、施設など)の希望。
- 代理意思決定者:誰に判断を託したいか、その理由。第二候補まで考えておくとより安心です。
- 価値観・人生観:なぜそのような医療・ケアを望む(または望まない)のか、ご自身の価値観や人生で大切にしてきたことなどを書き添えると、より深く意思が伝わります。
これらの項目について、エンディングノートや事前指示書に具体的に書き記しましょう。
人生会議(ACP)の重要性
事前指示書(リビングウィル)を作成することも大切ですが、人の考えや状況は変化するものです。また、実際に直面する状況は予測困難な場合もあります。
そのため、一度文書を作成して終わりにするのではなく、定期的に家族や医療・ケアチームと「人生会議」を行い、考えを共有し、必要に応じて意思表示を見直していくプロセスそのものが非常に重要です。
作成・活用のポイント
- 元気なうちに始める:判断能力がしっかりしている時に考え、話し合いましょう。
- 情報を集める:ご自身の病状や、受けられる医療・ケアについて、医師などから説明を受け、よく理解しましょう。
- 家族や信頼できる人と話し合う:最も重要なプロセスです。あなたの価値観や想いを共有し、代理意思決定者となる人には特に丁寧に伝えましょう。
- 書面に残す:話し合った内容や最終的な希望は、日付を入れて書面に残しましょう(エンディングノート、事前指示書など)。決まった書式はありませんが、医療機関や自治体が用意している場合もあります。
- 定期的に見直す:健康状態や生活環境、考え方の変化に合わせて、内容を見直し、更新しましょう。
- 保管し、共有する:作成した書類の保管場所を明確にし、家族や代理意思決定者、かかりつけ医などにその存在と場所を伝え、必要であればコピーを渡しておきましょう。
法的効力と注意点
日本においては、事前指示書(リビングウィル)の法的効力は、現時点(2025年4月)で法律によって明確に保障されているわけではありません。しかし、本人の意思を示す重要な証拠として、医療現場では最大限尊重される方向性にあります。
多くの医療機関では、人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインを定めており、本人の意思推定や家族との十分な話し合い(人生会議/ACP)を重視しています。
注意点:
- 事前指示書で、法律に反することや、医学的に適切でない治療を要求することはできません。
- 状況が変化した場合に備え、意思表示は定期的に見直すことが推奨されます。
- 代理意思決定者の指定についても、日本では明確な法的根拠が十分でない側面がありますが、本人の意向を推定する上で極めて重要な情報となります。広範な代理権が必要な場合は、任意後見制度の利用も検討しましょう。
あなたらしい最期を迎えるために
医療や介護に関する意思表示は、未来の自分と大切な人のために、今できる大切な準備の一つです。
まずはご自身の価値観を振り返り、信頼できる人と話し合うことから始めてみませんか。