相続財産の調査・評価について
相続手続きを進める上で、故人(被相続人)が遺した
全ての財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を正確に把握することが不可欠です。
その調査方法と評価の基本、財産目録の作成について解説します。
なぜ財産調査が必要なのか?
- 相続放棄・限定承認の判断材料:特に借金などのマイナス財産を把握しないと、3ヶ月の期限内に適切な判断(放棄するか否か)ができません。→ 相続放棄・限定承認
- 遺産分割協議の前提:全財産が明らかにならないと、相続人間で公平な遺産分割の話し合いができません。
- 相続税申告の基礎:相続税がかかるかどうか、かかるとすればいくらかを計算するために、全財産の正確な評価額が必要です。→ 相続税について
- 各種手続きのため:預貯金の解約や不動産の名義変更(相続登記)など、多くの手続きで財産の証明が必要になります。
- 後々のトラブル防止:調査漏れの財産(特に借金)が後から判明すると、大きなトラブルに発展する可能性があります。
相続人の調査と並行し、相続発生後、速やかに着手しましょう。
調査対象となる主な相続財産と調査方法
考えられるあらゆる財産・負債について、漏れなく調査する必要があります。主なものと調査のヒントは以下の通りです。
- 不動産(土地・建物)
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- 調査ヒント:固定資産税納税通知書、登記済権利証・登記識別情報通知、名寄帳(なよせちょう、市区町村で取得)、登記事項証明書(法務局で取得)。
- 賃貸不動産の場合は賃貸借契約書も確認。
- 預貯金
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- 調査ヒント:通帳、キャッシュカード、銀行からの郵便物(取引報告書など)。
- 心当たりのある金融機関に、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)を持参し、「残高証明書(死亡日時点)」と「取引履歴(過去数年分)」を請求。ネット銀行も忘れずに。
- 有価証券(株式・投資信託・債券など)
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- 調査ヒント:証券会社からの取引報告書、配当金支払通知書、特定口座年間取引報告書。
- 証券会社に連絡し、残高証明書(死亡日時点の評価額)を請求。古い株券(現物)がないかも確認。
- 生命保険金・死亡退職金
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- 調査ヒント:保険証券、保険会社からの通知、勤務先の退職金規程。
- これらは受取人固有の財産とされることが多いですが、「みなし相続財産」として相続税の課税対象になる場合があります。
- 自動車・動産
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- 調査ヒント:車検証、購入時の契約書。美術品、骨董品、貴金属などは、領収書や鑑定書がないか探す。
- 価値の評価が必要な場合があります。
- 貸付金・売掛金など
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- 調査ヒント:金銭消費貸借契約書、借用書、振込履歴など。
- 回収可能性も考慮して評価します。
- 借金・負債(ローン、クレジット、保証債務など)
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- 調査ヒント:【最重要】ローン契約書、督促状、クレジットカード明細、預金通帳の引き落とし履歴、保証契約書など。
- 故人の自宅や郵便物を徹底的に確認。
- 信用情報機関(CIC、JICC、KSC)への情報開示請求を行うことで、故人の借入状況を把握できる場合があります(相続人が請求可能)。
- デジタル資産
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- 調査ヒント:ネットバンキング、オンライン証券、電子マネー、暗号資産(仮想通貨)など。
- 故人のPCやスマホの利用状況を確認。
相続財産の評価方法(基本)
相続財産の価値は、原則として相続開始時(=被相続人の死亡時)の時価で評価します。相続税申告においては、財産の種類ごとに国税庁が定めた評価方法(財産評価基本通達)に従う必要があります。主な評価方法の考え方は以下の通りです。
・預貯金:相続開始日の残高。
・上場株式:相続開始日の終値など、4つの基準の中から最も低い価額を選択。
・土地:路線価方式(市街地)または倍率方式(郊外)で評価。
・建物:固定資産税評価額。
・その他の動産:原則として時価(売買実例価額、専門家の鑑定評価など)。
正確な評価は専門家へ
特に不動産や非上場株式などの評価は複雑です。相続税申告が必要な場合や、遺産分割で評価額が争点になりそうな場合は、税理士や不動産鑑定士などの専門家に評価を依頼することをお勧めします。
→ 専門家を探す・選び方財産目録の作成
調査・評価した結果を一覧表にまとめたものが「財産目録(ざいさんもくろく)」です。
- 目的:相続財産の全体像を把握し、遺産分割協議や相続税申告、限定承認の手続きなどで使用します。
- 記載内容:財産の種類、名称、所在地、数量、評価額などを、プラスの財産とマイナスの財産に分けて記載します。
- 書式:決まった書式はありませんが、裁判所のウェブサイトなどで書式例が公開されています。分かりやすく、正確に記載することが重要です。
財産目録を作成することで、その後の手続きがスムーズに進みます。
調査・評価の注意点
- 期限を意識する:相続放棄・限定承認の判断期限(3ヶ月)までに、少なくとも負債の有無や概算額は把握できるよう、迅速に調査を進めましょう。
- 徹底的に調査する:思い込みで判断せず、あらゆる可能性を考えて調査します。特に負債は見落としがないように注意が必要です。
- 記録を残す:調査の過程や収集した資料、評価の根拠などを記録・保管しておきましょう。
正確な財産把握が円滑な相続の鍵
相続財産の調査・評価は、相続手続き全体を左右する重要なステップです。
漏れなく、正確に行うことで、後のトラブルを防ぎ、スムーズな相続を実現しましょう。
複雑な場合や不安な場合は、専門家のサポートを得ることも有効です。