遺産分割協議について
遺言書がない場合や、遺言書で分け方が指定されていない財産がある場合、
相続人全員で「誰が」「何を」「どのように」相続するかを話し合って決める必要があります。
この話し合いを「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」といいます。
遺産分割協議の前提となること
スムーズな遺産分割協議を行うためには、事前の準備が不可欠です。
- 相続人の確定:誰が相続人なのか、戸籍謄本等を取り寄せて正確に確定していること。→ 相続人の調査・確定
- 相続財産の確定と評価:どのような財産(プラス・マイナス共に)がどれだけあるのか、その評価額も含めて明確になっていること。→ 相続財産の調査・評価
- 遺言書の確認:有効な遺言書があり、その中で財産の分け方が指定されていれば、原則としてその内容に従います(遺留分に注意)。遺言書がないか、あっても全ての財産について指定されていない場合に協議が必要となります。→ 遺言書について
【最重要】協議には相続人全員の参加が必須!
遺産分割協議は、法定相続人全員が参加して行わなければなりません。一人でも欠けた状態で行われた協議は無効となります。
- 未成年者がいる場合:親権者が同じく相続人である場合など、利益が相反するときは家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があります。
- 判断能力がない相続人(認知症など)がいる場合:家庭裁判所で成年後見人等を選任する必要があります。
- 行方不明の相続人がいる場合:家庭裁判所で不在者財産管理人を選任する必要があります。
これらのケースでは手続きに時間がかかるため、早めに専門家(弁護士など)に相談しましょう。
遺産分割協議の進め方
時期
法律上、遺産分割協議に明確な期限はありません。しかし、相続税の申告・納付期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)があるため、それまでに協議を終えておくのが一般的です。
方法
相続人全員が集まって話し合うのが理想ですが、遠方に住んでいるなどの事情があれば、電話、手紙、メールなどで行うことも可能です。重要なのは、全員が内容を理解し、合意することです。
話し合いのポイント
- 冷静に、感情的にならない:故人を偲ぶ気持ちを忘れず、互いの意見を尊重し合いましょう。
- 法定相続分を参考に:法律で定められた相続割合(法定相続分)は一つの目安になりますが、必ずしもそれに従う必要はありません。
- 個別の事情を考慮する:故人の介護を長年してきた、生前に多額の援助を受けていた(特別受益)、家業を継ぐ、などの事情を考慮して、柔軟に話し合いましょう(寄与分・特別受益については別途詳細な検討が必要)。
- 記録を残す:話し合いの経過や合意内容をメモしておくと、後の協議書作成に役立ちます。
遺産の分割方法の種類
遺産分割協議で合意した内容に基づき、具体的に財産を分ける方法には、主に以下の4つがあります。
- 1. 現物分割(げんぶつぶんかつ)
-
個々の財産をそのままの形で分ける方法。(例:「土地Aは長男へ」「預金Bは次男へ」「株式Cは長女へ」)
- メリット:手続きが比較的簡単。
- デメリット:公平に分けるのが難しい場合がある。不動産などは分割できないことも。
- 2. 換価分割(かんかぶんかつ)
-
不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続分に応じて分ける方法。
- メリット:公平に分けやすい。
- デメリット:売却の手間や費用(仲介手数料、税金など)がかかる。希望の価格で売れない可能性も。
- 3. 代償分割(だいしょうぶんかつ)
-
特定の相続人が、法定相続分を超える価値の遺産(例:自宅不動産)を取得する代わりに、他の相続人に対して差額分の代償金(現金など)を支払う方法。
- メリット:特定の財産をそのまま残せる(事業承継など)。
- デメリット:財産を取得する相続人に十分な支払い能力が必要。代償金の評価で揉めることも。
- 4. 共有分割(きょうゆうぶんかつ)
-
一つの財産(主に不動産)を、複数の相続人が共有名義で相続する方法。
- メリット:とりあえず分割を完了できる。
- デメリット:将来的に管理・処分(売却など)が複雑になり、トラブルの原因となりやすい。次の相続が発生するとさらに権利関係が複雑化するため、できるだけ避けるべき方法とされています。
これらの方法を組み合わせて分割することも可能です。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議で全員の合意が得られたら、その内容を明確にするために「遺産分割協議書」を作成します。
重要性
- 相続人全員が合意した証拠となる。
- 不動産の相続登記や預貯金の名義変更・解約などの手続きに必要となる。
- 後のトラブルを防ぐ。
記載内容と作成のポイント
- タイトル「遺産分割協議書」
- 被相続人の情報(氏名、最後の住所、本籍、死亡年月日)
- 相続人全員が協議に参加し、合意した旨の記載
- 誰がどの財産を相続するかの具体的な内容(不動産は登記簿通り正確に、預貯金は銀行名・口座番号なども記載)
- 協議が成立した日付
- 相続人全員の住所・氏名を記載し、各自が署名し、実印(登録された印鑑)で押印する。
- 各相続人が保管できるよう、人数分作成し、それぞれに印鑑証明書を添付するのが一般的。
正確性が求められる重要な書類ですので、不安な場合は司法書士や行政書士、弁護士などの専門家に作成を依頼することをお勧めします。
協議がまとまらない場合:調停・審判
相続人間でどうしても話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の手続きを利用することになります。
- 遺産分割調停:家庭裁判所の調停委員が間に入り、当事者間の話し合いによる合意(解決)を目指します。
- 遺産分割審判:調停でも合意に至らない場合に、家庭裁判所の裁判官が、法律や様々な事情を考慮して、遺産の分割方法を決定(審判)します。審判には法的拘束力があります。
調停や審判には時間がかかり、精神的な負担も大きくなるため、できる限り話し合いでの解決を目指すのが望ましいですが、やむを得ない場合は弁護士に相談の上、これらの手続きを検討します。
円満な遺産分割のために
遺産分割協議は、法律的な側面だけでなく、感情的な側面も絡む難しい話し合いになることがあります。
正確な情報を基に、お互いを尊重し、冷静に話し合うことが大切です。
必要であれば、中立的な専門家のサポートを得ることも有効な手段です。