遺留分について
「遺言書で全財産が特定の人に…」「生前にほとんど贈与されていた…」
そんな時でも、一定の相続人には最低限保障される遺産の取り分があります。
それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。
遺留分とは? なぜ認められている?
遺留分とは、被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹以外の法定相続人に、法律上最低限保障されている遺産の取得割合のことです。遺言書は原則として法定相続より優先されますが、遺留分を侵害する内容(例えば「全財産を愛人に遺贈する」など)の遺言も可能です。しかし、その場合、遺留分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った人に対して、侵害された額に相当する金銭の支払いを請求することができます。
この制度は、遺言者の意思(遺言自由の原則)を尊重しつつも、残された家族(特に配偶者や子)の生活保障や、相続人間の公平性を保つ目的で設けられています。
遺留分権利者(誰に権利があるか?)
遺留分を請求できる権利を持つ人(遺留分権利者)は、以下の相続人に限られます。
- 配偶者
- 子(子が亡くなっている場合は孫などの代襲相続人)
- 直系尊属(父母や祖父母など。ただし、子や孫などがいない場合に相続人となるケースに限る)
注意!兄弟姉妹に遺留分はない
被相続人の兄弟姉妹(およびその代襲相続人である甥・姪)には、遺留分は認められていません。したがって、遺言書で兄弟姉妹に財産を全く相続させないという内容も可能です。
遺留分の計算方法
遺留分の具体的な金額は、以下のステップで計算します。
単純な相続開始時の財産だけでなく、以下のものを加算・減算して計算します。
基礎財産 = (相続開始時のプラス財産) + (生前贈与) - (相続債務)
- 生前贈与:原則として相続開始前1年以内に行われた贈与。ただし、相続人に対する贈与(特別受益)は相続開始前10年以内のもの、遺留分権利者に損害を加えることを知って行われた贈与は期間に関わらず加算される場合があります。
- 相続債務:借金や未払金など。
基礎となる財産全体に対する遺留分の割合を計算します。
総体的遺留分 = 基礎財産 × (遺留分割合)
- 直系尊属(父母など)のみが相続人の場合:1/3
- 上記以外の場合(配偶者や子がいる場合):1/2
総体的遺留分に、各遺留分権利者の法定相続分を掛けて計算します。
個別的遺留分 = 総体的遺留分 × (各権利者の法定相続分)
例:相続人が配偶者と子2人、基礎財産が6000万円の場合
- 基礎財産 = 6000万円
- 総体的遺留分 = 6000万円 × 1/2 = 3000万円
- 個別的遺留分:
- 配偶者:3000万円 × 1/2 (法定相続分) = 1500万円
- 子1人あたり:3000万円 × 1/4 (法定相続分) = 750万円
※特別受益や寄与分など、個別の事情によって実際の請求額は変動する可能性があります。正確な計算は複雑なため、専門家への相談をお勧めします。
改正後のポイント:遺留分侵害額請求
2019年の民法改正により、遺留分を侵害された場合の権利行使方法が変わりました。
以前は、侵害された財産そのものの返還(現物返還)を求めることが原則でしたが、改正後は、侵害された額に相当する金銭の支払い(遺留分侵害額請求)を求める権利となりました。
これにより、不動産などを共有状態にせず、金銭で解決しやすくなりました。
遺留分侵害額請求(権利の行使方法)
遺留分を侵害された場合、以下の手順で権利を行使します。
- 侵害額の計算:ご自身の遺留分額と、実際に相続または遺贈・贈与で受けた額を比較し、不足額(侵害額)を計算します。
- 相手方への意思表示:財産を多く受け取った相続人や受遺者・受贈者に対して、「遺留分侵害額を請求する」という意思表示をします。まずは話し合いを試みるのが一般的ですが、後々の証拠とするため、配達証明付きの内容証明郵便で通知を送ることが推奨されます。
- 話し合い(交渉):当事者間で支払い方法や時期などについて話し合います。
- 調停:話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立てます。調停委員を交えて合意を目指します。
- 訴訟:調停でも合意に至らない場合は、地方裁判所に訴訟を提起して、裁判所の判決を求めることになります。
請求の意思表示は、後述する時効期間内に行う必要があります。
【重要】請求権の時効(期限)に注意!
遺留分侵害額請求権には、以下の2つの時効(消滅時効)があります。この期間を過ぎると権利が消滅し、請求できなくなります。
- 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間
- 相続開始の時から10年間
遺留分が侵害されている可能性がある場合は、速やかに内容を確認し、1年以内に請求の意思表示を行うことが非常に重要です。
遺留分の放棄について
遺留分権利者は、自らの意思で遺留分を放棄することも可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 遺留分の放棄は、相続開始後にのみ可能です。生前に放棄することはできません(生前放棄は無効)。
- 相続開始後に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。単に「放棄します」と他の相続人に伝えるだけでは法的な効力はありません。
遺言書作成と遺留分
遺言書を作成する際には、遺留分権利者とその遺留分額を考慮することが、後のトラブルを防ぐ上で重要です。遺留分を侵害する内容にする場合は、なぜそのような配分にするのか理由を付言事項として記載したり、遺留分権利者に事前に説明しておくなどの配慮が考えられます。
遺留分に関する相談は弁護士へ
遺留分の計算、侵害額請求の交渉や手続き(調停・訴訟)は、法律的な知識や経験が不可欠です。以下のような場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
- 遺留分が侵害されている可能性があるが、計算方法や請求方法が分からない。
- 相手方との話し合いがうまくいかない。
- 調停や訴訟を検討している。
- 遺留分を考慮した遺言書を作成したい。
権利を知り、適切な対応を
遺留分は、法律で認められた大切な権利です。
もしご自身の遺留分が侵害されている可能性があると感じたら、まずは正確な情報を把握し、
時効に注意しながら、必要であれば専門家のサポートを得て適切な対応をとりましょう。