終活・相続の羅針盤

なぜ遺言書を作成するのか? その重要性

遺言書がない場合、相続財産は法律で定められた相続人(法定相続人)が、法律で定められた割合(法定相続分)に従って分けるのが原則となり、その分け方を相続人全員で話し合う「遺産分割協議」が必要になります。遺言書を作成しておくことには、以下のような大きなメリットがあります。

  • 自分の意思で財産の分け方を決められる:法定相続分と異なる割合で相続させたり、特定の財産を特定の人に相続させたり(遺贈含む)できます。
  • 相続トラブルの防止:誰に何を相続させるか明確にすることで、相続人間の無用な争いを避け、円満な相続を実現しやすくなります。
  • 特定の人への配慮:法定相続人以外の人(内縁の妻、お世話になった人など)に財産を残したり、特定の相続人(障がいのある子など)に多く財産を残したりできます。
  • 相続手続きの円滑化:遺言書の内容によっては、遺産分割協議が不要になったり、遺言執行者を指定しておくことで手続きがスムーズに進んだりします。
  • 事業承継など特別な目的:会社の株式や事業用資産の承継について、明確な指示を残せます。

特に、相続人同士の関係が複雑な場合や、特定の人に財産を残したい希望がある場合などは、遺言書の作成を強くお勧めします。

遺言書の主な種類と特徴

法律で定められた遺言の方式にはいくつかありますが、主に利用されるのは以下の3種類です。

1. 自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)

作成方法:全文、日付、氏名を遺言者が自筆で書き、押印する。

※財産目録はパソコン作成等も可(各ページに署名・押印が必要)。2020年から法務局での保管制度あり。

メリット
  • いつでも手軽に作成できる。
  • 費用がかからない。
  • 内容を秘密にできる。
デメリット
  • 形式不備で無効になるリスクがある。
  • 紛失・偽造・隠匿のリスクがある。
  • 発見後に家庭裁判所の「検認」が必要(法務局保管制度利用時を除く)。

法務局保管制度について

自筆証書遺言を作成し、法務局に保管を申請する制度です。原本を法務局が保管するため紛失等のリスクがなく、死後の家庭裁判所での検認が不要になるメリットがあります。手数料も比較的安価です。自筆証書遺言を作成する際は、この制度の利用を検討する価値があります。

2. 公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)

作成方法:証人2人以上の立会いのもと、遺言者が公証人に遺言の内容を伝え、公証人が筆記して作成する。

メリット
  • 公証人が関与するため、形式不備で無効になるリスクが極めて低い。
  • 原本が公証役場に保管されるため、紛失・偽造等のリスクがない。
  • 家庭裁判所の「検認」が不要。
  • (自筆が難しい場合でも作成可能)
デメリット
  • 作成に手間と費用(公証人手数料)がかかる。
  • 証人2名が必要(公証役場で紹介も可能だが費用別途)。
  • 遺言の内容が公証人と証人に知られる。

3. 秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)

作成方法:遺言者が作成・署名・押印した遺言書を封筒に入れ、遺言書と同じ印で封印し、公証人と証人2名以上に提出して、自分の遺言書であること等を申述する。

メリット
  • 遺言の内容を秘密にしたまま、存在を公証できる。
  • (パソコン作成や代筆も可能 ※署名は自筆)
デメリット
  • 内容の不備で無効になるリスクがある(公証人は内容を確認しない)。
  • 作成の手間がかかる。
  • 発見後に家庭裁判所の「検認」が必要。
  • あまり利用されていない。

一般的には、手軽さなら自筆証書遺言(できれば法務局保管制度利用)、確実性なら公正証書遺言が選択されることが多いです。

遺言書に書けること(主な遺言事項)

遺言書で法的な効力を持つ事項(遺言事項)は法律で定められています。主なものには以下があります。

  • 財産の処分に関すること:
    • 相続分の指定(各相続人の取り分を指定)
    • 遺産分割方法の指定(「不動産は長男に」など具体的に指定)
    • 遺贈(相続人以外の人や団体に財産を渡すこと)
    • 信託の設定
  • 相続人の身分に関すること:
    • 子の認知
    • 相続人の廃除・廃除の取消し(※家庭裁判所の審判が必要)
  • 遺言の執行に関すること:
    • 遺言執行者の指定・指定の委託
  • その他:祭祀主宰者の指定(お墓などを誰が継ぐか)など

上記以外の事柄(例:葬儀の希望、家族への感謝の言葉など)も「付言事項」として書くことはできます。法的効力はありませんが、遺言者の想いを伝える上で意義があります。

遺言書作成の重要ポイント:法的要件と遺留分

  • 法的要件の厳守:自筆証書遺言なら全文・日付・氏名の自書と押印など、各方式で定められた要件を欠くと遺言全体が無効になります。細心の注意が必要です。
  • 遺留分への配慮:遺言書で自由に財産配分を指定できますが、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)には最低限保障される「遺留分」があります。遺留分を侵害する内容の遺言も有効ですが、侵害された相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。トラブルを避けるため、遺留分に配慮した内容にするのが望ましいです。→ 遺留分について

不安な場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。→ 専門家を探す

遺言執行者とは?

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続き(預貯金の解約・払い戻し、不動産の名義変更など)を行う権限を持つ人です。遺言書で指定するか、指定がない場合は家庭裁判所で選任してもらうことができます。

  • 相続人の一人や、信頼できる友人・知人、または弁護士・司法書士・信託銀行などの専門家を指定できます。
  • 相続手続きをスムーズに進めるため、特に相続財産が多い場合や、相続人間で対立が予想される場合に指定しておくと有効です。

遺言書の保管方法

作成した遺言書は、紛失したり、改ざんされたりしないよう、適切に保管する必要があります。

  • 自筆証書遺言:
    • 自宅の安全な場所(金庫、仏壇など)※発見されない、紛失のリスクあり
    • 銀行の貸金庫 ※死後、相続人が開けるのに手続きが必要な場合あり
    • 弁護士・司法書士などの専門家への寄託
    • 法務局保管制度(推奨):原本を法務局が保管。検認不要のメリット大。
  • 公正証書遺言:原本は公証役場に原則20年間(場合によりそれ以上)保管されます。遺言者には正本・謄本が交付されるので、それを大切に保管します。
  • 秘密証書遺言:遺言者自身が保管します。

どの方法で保管する場合も、遺言書の存在と保管場所を、信頼できる人(遺言執行者や相続人など)に伝えておくことが重要です。

遺言書の検認とは?

検認(けんにん)とは、遺言書の偽造・変造を防ぎ、その保存を確実にするとともに、相続人に遺言書の存在と内容を知らせるための、家庭裁判所での手続きです。

  • 対象:自筆証書遺言(法務局保管制度を利用しない場合)秘密証書遺言
  • 不要な場合:公正証書遺言法務局保管制度を利用した自筆証書遺言は検認不要です。
  • 手続き:遺言書の保管者または発見者が、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てます。
  • 注意点:封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いのもとで開封しなければなりません。勝手に開封すると過料に処せられることがあります。

※検認は遺言書の有効・無効を判断する手続きではありません。

あなたの想いを未来へ繋ぐために

遺言書は、残される家族への最後のメッセージであり、円満な相続のための道しるべです。
ご自身の状況に合わせて最適な方式を選び、法的に有効な遺言書を作成・保管しましょう。
迷ったときは、専門家への相談もご検討ください。

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